野武士のような走り
「不思議な選手!こんなに苦しい顔をしてもずっと強さが続く」と瀬古利彦さんが言えば、「今までになかったマラソン選手!」と川島伸次さん。12月4日に行われたロンドン五輪の選考レース福岡国際マラソンで解説した五輪の名ランナーも絶賛でした。その主役は日本人トップで3位に入った川内優輝さん(埼玉県職員)です。私もテレビで観戦し、川内さんはまるで野武士のような選手だと感じました。20キロ手前で先頭集団から遅れ始めるも、36キロ地点で日本人トップの集団に追い付き、前へ。38キロ過ぎの給水所で水を浴び「行くぞ!」と大きな声をあげて自分自身を奮い立たせるとがむしゃらな走りでゴールへ飛び込みました。そして倒れ込んだのです。苦しくなってから強さを発揮する川内さん。自分でも「苦しい時が好き」と話します。
真面目を絵にかいたような選手です。日本マラソン最強時代を築いた瀬古さんや宗さんの時代とは違い、現代の娯楽や誘惑が多いなかでの真面目さは次元が違います。川内さんは質問する人の目をじっと見つめるので、そのことを問いかけると「そのほうが気持ちが伝わると思いますので」と。
市民ランナーの星として注目され、夏のテグ世界選手権にも出場しましたが、まさかこの福岡で実業団の有力選手達を打ち破るとは関係者は思っていなかったでしょう。それでも本人は「これでは世界と戦えません」と自分に厳しく、2月の東京マラソンで自己ベスト(2時間8分37秒)の更新を狙うと宣言。ライバルの実業団選手たちは大いに発破を掛けられました。観ている者の勇気を引っ張るような川内さんの全身全霊の走りに日本男子マラソンの新時代を予感します。
(共同通信/2011年12月5日配信)
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