名監督の采配
大寒2日後の冷たい雨の中、桃色のユニフォームが春の花のように躍動しトップでゴールテープを切りました。北九州市で開催された第23回選抜女子駅伝北九州大会。高校生(6区間)と大学生・実業団(5区間)のチームが同時に同じコースで競い合い、天満屋チームが優勝。2区を走った重友梨佐さんと4区を走った坂本直子さんは翌週の大阪国際女子マラソンへと弾みをつけたのです。
大会前夜、天満屋の武冨豊監督と小倉の街で食事をご一緒する機会に恵まれました。お酒も進み、前週の都道府県女子駅伝で不調だった中村友梨香さん(北京五輪マラソン代表)の話題に。今回の駅伝メンバーに入ってない理由を尋ねると意外な言葉が返ってきました。「3区は中村に走って欲しかった」と。私も同感でした。都道府県女子駅伝では岡山県代表として1区を任されたのに、中村さんは区間33位と大きく出遅れました。その屈辱を晴らすためにも出来るだけ早くレースに出場し、良い結果を残すことが必要だと思ったのです。「監督命令で走らせれば良かったんじゃないですか」と私が話すと、武冨さんはゆっくりと説明してくれました。
北九州大会の2日前、練習で釘尾実来さん(3区に出場)よりも中村さんのほうがタイムがよかったそうです。そして中村さんの目の前で「釘尾、いけるか、大丈夫か」と問いかけました。武冨さんは中村さんが自ら「私に走らせて下さい」と言ってくるのを待っていたのです。
「本人が『走りたい』と言って“走る”のと、監督から『走れ』と言われて“走らされる”のは全く別物なんですよ」と武冨さん。良き指導者の采配には表には見えない細やかさがあることを知りました。
(共同通信/2012年1月23日配信)
|