慰労会で乾杯
朝まで降っていた雨も上がり、澄んだ空はまるで彼女の気持ちを表しているよう。大阪国際女子マラソンが引退レースとなった赤羽有紀子さんは、この日も夫でコーチの周平さんと一緒にレースを走っていました。15km過ぎ、有紀子さんの少し前をトップで走るポーランドの選手について周平さんは沿道から「26分台の選手だから(心配するな)、大丈夫、大丈夫」と。終盤に優勝したタチアナ・ガメラシュミルコさん(ウクライナ)に追い付かれても「一緒に行け、まだ自己ベスト狙える」とポジティブな言葉をかけ続けたのです。その声を聞く度に有紀子さんは笑顔になり、指示通りに走って日本人トップの第2位に。私は移動中継車からその様子を眺めながら有紀子さんが周平さんや沿道の全ての人に「ありがとう」という思いを全身で返しているように見えました。こんなラストランができる有紀子さんは幸せだなと感じました。
そしてゴール後に「五輪にも世界選手権にも行けて、幸せな競技人生でした」と有紀子さんが話すと、周平さんが「指導の実績のない私を信じてよく付いてきてくれた」と。お互いを思いやる言葉もステキだったのです。2010年の大阪国際では有紀子さんは途中棄権。皆、赤羽さん夫妻はショックで招待選手の慰労会には来ないだろうと思っていたらしっかり現れ、武冨豊さん(天満屋総監督)など名監督から熱心に教えを請うていたのです。だから今年はホクレンチームの食事会を終えて深夜0時に合流した夫妻を皆で待っていました。武冨さんや山下佐知子さん(第一生命監督)の顔を見た瞬間、「ありがとうございます」と話す夫妻の目に涙が。今度は皆でありがとうと乾杯しました。
(共同通信/2014年1月27日配信)
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