自らを厳しく追い込み
立春を数日後に控えた暖かな日、新谷仁美さん(ユニバーサルエンターテインメント)が都内で引退記者会見を開きました。私はその時、全日本実業団連合の合同合宿を取材に宮崎県延岡市へ。彼女の引退を、「もったいないよね」と惜しむ実業団の監督達の声がたくさん聞こえてきました。
興譲館高校(岡山県)時代からトップ選手として活躍。小出義雄さんを慕い千葉で練習しながら、2012年ロンドン五輪には1万mで出場し9位に。昨年のモスクワ世界選手権でも5位入賞という輝かしい成績を収めました。トラック種目の入賞はマラソンではメダルに匹敵します。小出さんは「新谷の自己管理力はナンバー1だよ。」と、才能に加えて努力する力を褒め称えていました。ただ、抜群のスピードをマラソンで生かすことを勧めても、断固として首を縦に振らなかったそうです。彼女自身がマラソンに向いていないことを自覚していたのでしょう。だからこそトラック種目で世界と戦うことにとことんこだわったのだと思います。
引退会見の翌日「燃え尽きちゃったのかな」と小出さん。私も昨夏のモスクワで新谷さんをみて、あまりの細さに自分を追い込み過ぎているなと感じました。体脂肪率は3.1%。どのように体を絞ったかと聞くと、厳しい練習に加えて「一日に半身浴を6回、昼食抜きで夕食はサラダとおにぎり1個。皆さんは真似しないでください」と新谷さん。まるで減量をするボクサーのようだと感じましたが、アフリカの選手たちと戦うための挑戦だったのです。日本のエースとして先頭を走り続け、世界に果敢に挑んだ新谷さん。あなたの勇気ある走りは皆の目に焼き付いています。ありがとう。
(共同通信/2014年2月3日配信)
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