ウルトラマラソンに愛を込めて
静かな東京都内で寒椿の赤が一層濃く見えた1月3日、悲しい知らせが届きました。ペンを通してウルトラマラソンの魅力を伝え続けた夜久弘さんが2日にお亡くなりになったのです。享年69歳。「市民ランニングは結果だけではなくプロセスから人生のドラマがあり、楽しみ方の多様性がある」というメッセージを発信し続けた夜久さん。文章も美しく幻想的で、どれほど多くの人を走る世界に誘ってくれたことでしょう。
漫画雑誌の編集者だった夜久さんは後にライターに転身。健康不安を払しょくするためにランニングを開始し、39歳で初めてフルマラソンを走り、その後サロマ湖100qマラソンには23回出場して13回完走しています。私も何度かご一緒していますが、いつも笑みを絶やさない、スマートな紳士でした。マウイマラソンの前夜祭でお会いした時は、多くのランナーに囲まれながらも、皆さんに走り始めたきっかけや走りの魅力などを質問していたのです。私が「明日走るのに、よく取材しますね」と尋ねると、「取材は恋愛、(それをまとめる)文章はラブレターですよ」と走る仲間のことをこよなく愛していました。
今年2月にガンが発覚。闘病生活は辛かったはずなのに「ガンを克服した人たちの共通点を聞くと、決して諦めず自分は元気だと思っています。これはウルトラマラソンに挑む気持ちと似ていますね。コース条件が厳しかったとしても脚を動かすことを止めなければ必ずゴールに近づいていくのです」と、明るく前向きでした。
人生も最後まで笑みを絶やさず、心豊かに走り続けた夜久さん。現在の市民マラソンブームの立役者のです。ありがとう。安らかにお眠りくださいね。
(共同通信/2015年1月9日配信)
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