報奨金1億円やりがいに
陸上界は3月に桐生祥秀さん(東洋大)が参考記録ながら9秒87という記録を出し、その前には日本実業団陸上競技連合がマラソンで日本記録を破ると1億円の報奨金を出す、という発表をしました。良い風が吹いています。そのニュースを聞いた瀬古利彦さんから電話があり「俺たち、生まれる時代を間違えたな」と。選手にとってはお金だけが目的ではありませんが、報奨金は大きなやり甲斐につながっていくと思います。
この歴史的な制度発足については、2013年10月に日本実業団連合の会長になられた西川晃一郎さん(67歳)の情熱が実を結びました。その年の12月に活性化委員会を発足させ、私もメンバーの一人。就任のご挨拶で西川さんは「一生懸命がんばる選手達に対して、野球やサッカーと同様、陸上競技でも夢を持てる環境にしたい」と穏やかながら力強く話されたのです。そして自ら経済団体や各企業をまわり、報奨金の原資となる資金募集に動いていらっしゃいます。
数年前にご病気で手術を受け障害者手帳をお持ちの西川さん。東京大学法学部に在学中、陸上部に所属し、その後は日立製作所で主に海外畑を歩まれました。「今後は自分の基礎を作ってもらった陸上に恩返ししたい」と話します。
そもそも実業団の陸上チームは、会社の宣伝や社員の士気高揚のために駅伝に力を入れるところが殆ど。その中で個人競技のマラソンに報奨金を出すのは、日本の陸上界全体の盛り上がりを考える懐の広さでしょう。そして今後は、他の種目でも日本記録に対して何らかの報償を考えていくようです。大きな変革を実行する動きの早さには、西川さんのようなリーダーシップが必要なのだと思います。
(共同通信/2015年4月13日配信)
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