タフな若手の育成急務
スカイブルーのユニフォーム姿で、北京の鳥の巣スタジアムに最初に帰ってきたのはエリトリアのギルメイ・ゲブレスラシエさん。2位のエチオピアの選手と笑顔で握手した後、2人は国旗を背に、手を取り合ってウィニングラン。私は北京のスタジオでその映像を観ながら胸が熱くなりました。エリトリアは1993年にエチオピアから独立し、今でも国境では両国軍が対峙しています。そんな2つの国の選手が仲良く並んで走る、スポーツはいいものです。
この日、北京世界陸上選手権初日の男子マラソンを瀬古利彦さんと共に解説しました。ゲブレスラシエさんは、1964年の東京五輪の男子マラソンで優勝したアベベ・ビキラさん(エチオピア)を彷彿させる哲学者の雰囲気をもつ19歳。「日本も20歳前後からマラソンを走らないと益々世界に遅れをとる」と、いつもは明るい瀬古さんの表情に緊張感がありました。
確かに、日本代表の藤原正和さんと前田和浩さんは21位と40位。気温が30度近い中、ゴールタイムが2時間12分台という遅いレース展開にも関わらず、ペースの上げ下げに付いていけなかったのです。レース後に日本陸上競技連盟マラソン部長の宗猛さんは「若い選手に期待したい。今いるマラソン選手では無理だ」とバッサリ。67人中、世界記録保持者を含む25人が棄権している状況下でも、日本選手に厳しい評価でした。でも宗さんの優しい目から、愛のムチだと感じました。
5年後の東京五輪の最終日に新国立競技場へゴールする男子マラソン。夏のマラソンは2時間2〜3分台の記録を持つアフリカ勢が力を発揮できるとは限りません。「暑さに強い」タフな選手を育てることが急務です。
(共同通信/2015年8月24日配信)
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